ほっとひといき〜理事長ウメノ医師の休けい室

映画「凪待ち」を鑑賞しました

ある方に勧められて、映画「凪待ち」(なぎまち)(2019年日本映画、白石和彌監督、香取慎吾主演)を鑑賞しました。(以下、ネタバレ少々を含みますので未鑑賞のかたはご注意ください。)

当クリニックでもギャンブル依存症の治療セッションを行っておりますが、この映画はギャンブル依存症を描いたものです。主人公である郁男は、競輪から抜けだすことができず、同棲相手の亜弓の貯金をくすねるようなギリギリの生活を送ってきました。競輪をやめるためにそれまで暮らしてきた川崎を離れて亜弓の郷里である石巻市で住みはじめたものの、そこでもノミ屋に出入りしてギャンブルをくり返すようになってしまいます。

「なぜこのタイミングで…」とあきれるようなギャンブルのくり返しや、周囲から見るとちっとも理解できないような唐突な暴力発動や自暴自棄な行動など、依存症に認められる特徴がきめ細かく描かれており、キャストもそれぞれ熱演でたいへん印象深く感じました。

ギャンブル依存症とは、自らギャンブルをやめたいと願ってるにもかかわらず、回数や頻度、掛け金がコントロールできなくなってしまう疾患です。しかし一般のかたがたからは、「単に意志が弱いのではないか?」、「だらしない人間なのではないか?」と受け取られがちです。映画のなかでも主人公は「オレはだめな人間です」とくりかえします。

しかし医学的には、脳の機能であるブレーキがきかなくなった状態ととらえられます。くり返しギャンブルによる強い刺激や興奮、勝利したときの快感を感じていくうちにいわば自動車のブレーキが次第に効きづらくなるように、金銭や娯楽としてほどほどに楽しんできたはずのギャンブルに関する感覚がマヒしてきてコントロールができなくなってしまうのです。つまり本人の意志や倫理性とは無関係に起こる疾患ということができます。

いっぽうで、ご本人の立場に立つと、ギャンブルの繰り返しには理由があります。この映画でもやはり、主人公がギャンブルをくりかえすのには理由があったように思われます。それは、亜弓を南の島に連れて行くこと、できればそこに別荘でも建てるための資金を作ることだったのではないでしょうか?その夢が忘れられなかったことがギャンブルの繰り返しにつながったと解釈することができると感じました。

ギャンブル依存症とは、夢を忘れず、夢を追い続ける、ロマンティックなものを忘れないということでもあります。ギャンブル依存症のかたがたとは、何かに熱中して追い求め続ける「夢を見る力」が少々強すぎる人たち、とも言えそうです。

掲載:2019/7/29 |



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