ほっとひといき〜理事長ウメノ医師の休けい室

演劇「FORTUNEフォーチュン」を鑑賞しました

アパリクリニック理事長ブログ 「ほっとひといき」にようこそ。

過日、東京芸術劇場にて演劇「FORTUNE(フォーチュン)」(パルコプロデュース、サイモン・スティーブンス作)を鑑賞いたしました(以下若干のネタバレを含みますので、今後鑑賞のご予定のある方はご注意ください)。主演の森田剛さんや吉岡里帆さんらキャストのみなさんが大変すばらしいのですが、蠱惑的でセリフによって変ぼうする田畑智子さんの演技には強い感銘を受けました。

これは自らの欲望を満たすために悪魔と契約をする映画監督のおはなしですが、全体をドラッグ使用の顛末を描いたようにも読みとれ、私としては興味ぶかく拝見しました。冒頭しばらくのところで、この映画監督がある飲み物に「依存している」というセリフがあり、コカインらしき薬物を使用してしまう、というシーンもあります。その後、美しいが怪しげなバーに行き、悪魔と契約を結び、自分の魂と引き換えに欲望をなんでもかなえることができるようになります。そしてパワフルになって金や力を手にすることが-作る映画を大成功させ、片思いの相手を手に入れ、目の前の人を好きなようにあやつったり、死者を生き返らせて会うことさえも-できるようになります。

しかし次第に精神的に疲弊し、最期には悲劇的な結末が展開していきます。
装置が素晴らしく、舞台全体に立ちはだかる壁面の向こうに真っ赤なバーが見えたり、色とりどりの花市場がひろがったり、あるいはパステルカラーでまとめられたプールサイドらしき場所になったり、アイデアが盛り込まれ奥行きをつかった美しい装置でした。ラストの方に舞台の上に砂が落ち続けてくるシーンがあるのですが、ステージ全体が巨大な砂時計と化して一秒一秒過ぎ去っていく時間の冷厳さを象徴しているようで、たいへん興味ぶかく感じました。

ドラッグを使用することで、一時的にはすべてが手に入れられたような気分になり、華やかで官能的なバーで狂騒するような喜びにひたることができる、しかしそれは永くつづくことはなく、過ぎ去る時間のながれのなかで破滅的な結末にたどりついてしまう、という薬物使用に関連して起きるできごとを、お芝居全体が象徴しているように感じられました。

もちろんこの寓話めいた悲劇をドラッグ使用の暗喩とだけみるとすれば、それは一面的すぎ、豊かな内容を単純化しすぎることになってしまうでしょう。しかし薬物や依存症をめぐって悩み苦しむ一人の人間の生きざまを表現したとみると、これは実は大変に現実的なおはなしだ、と言うこともできると思います。

とても優れたお芝居でしたので、つい発信したくなりました。そしてこの悲劇に象徴されているような事態を避け、孤独に悪戦苦闘している人たちに寄り添い、力になることがわれわれのミッションではないか、と考えています。それではまた。

掲載:2020/1/31 |



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